非予告型殺人―サイレントチルドレンの犯罪

 
 この度、埼玉県川口市で女子中学生(14)が父親(46)を殺すといった大変いたましい事件が起こった。 私の思考がネット麻痺化している最中、この事件もまた道端で蹴ったことも忘れるような路傍の石程度の事件かと思った。
 
 
 しかしながら、ニュースを見るかぎり、目立つ“トラブル”というのが存在せず、県警は事件直前の状況などを今もなお、調べているそうだ。私もこのニュースを確認するかぎり、この家庭はごく普通の四人家族で、つつましい家族だと思えた。家庭や学校に不満を持っていながらも、その不満は何処にでもあるようなもので、これといった動機、つまり、環境犯罪誘因性がないのだ。
 
 私は今までの凶悪事件の中でこの殺人は大変特異的なものだと考察する。昨今、アキバの事件によって、“犯罪予告”が流行りだした。ところが、この川口刺殺事件には“予告”と呼べるものがない。無論、親しい人に殺人の予告など、推理小説の世界以外では見かけることはない。私が問いたいのは“予告”ではなく、“予告”をしたいという動機、“シグナル”が存在しないのだ。
 
 たいていの凶悪事件には“シグナル”が存在する。なんかあの子変、おかしいという、シグナルも、その子を見ていると、なんとなくだがわかるものだ。しかしながら、この事件にはこういったシグナルがないのだ。
 シグナルというのは第三者が目撃する以外にも、轍のような履歴、ログというのが存在する。おととしぐらいか、ある少女が母親を毒殺しようとして、その苦しむ様子をノートなどに記録していた。少女は殺すという目的ではなく、毒に冒されてどうやって死んでいくといった過程を追うのが目的だった。このノートが発見されたおかげで、少女の動機“シグナル”は、はっきりしたわけだ。
 
 県警はシグナルといえるログを探そうとノートやケータイを漁っていると思われるが、おそらく何も見つからないような気がする。マスコミは卒業文集から何か動機となる部分を引用するに違いないが、そこから何が浮き出してくるのか? このまま、はっきりとしないまま、精神鑑定に入れられるのがオチであろう。
 それと、ある専門家は夢遊病だというが、夢で人は殺せるものだろうが。無意識下にある親への殺意に触発されて、兄と父親が眠る寝室に乗り込むなんてことあるのだろうか? 先天性がある病気が原因だと誰かがいうと思うが、もしそうだとして考えた場合、周りの人からおかしいと思う客観性なシグナルがあるはずだ。
 
 ――ホント、この事件はシグナルがない。サイレントすぎる。今の子供たちは自分の意見を言わず、周りと同じことを言うサイレントチルドレンが多いと聞くが、これと同じなんだろうか? 子供のパーソナルが見えてこないのがこの殺人事件から顕著に読み取れてしまった時代となった。
 しかしながら、流動するネット時代に、ここまで読み取れる人は何人いるのだろうか。あまりにも忙しすぎる毎日に、いろんなことを見落としがちだが、子供のパーソナルだけは見落としたくないものだ。
 

追記 鬼の首でも取ったつもりなのかね……

 
 産経のネットニュースでもやっていたが一度、報告。TBS系の深夜の報道番組、ニュース23で放映していたが、猟奇的なマンガとミステリー小説が押収された。モザイクでぼやけていたが、どうみてもあからさますぎる。おそらくネット通の方ならあれを見れば、ひぐらしの鳴く頃に、の表表紙だということは一瞬でわかるだろう。
 これでまた無色だったニュースにも“二次元の猟奇”という色がついてしまった。そして、その色は夏の夜にうごめく灯取虫が集まる灯火になりそうだ。
 とりあえず、マスコミのコトバを先に奪っとこう。“彼女の心理状態は漫画のキャラクターに感情移入して、そのとおりのことをしてしまった”と、わざと反感を買わせるようなありきたりな記事を書きそうだ。