二十五人の白雪姫を実際に書いてみた。

 仮に、二十五人の白雪姫がいたとしてらどうなるのかな? と思い、思い切って書いてみました。普通の白雪姫を読みたい方はこちらの青空文庫を見比べて見てください。

 なお、文章は青空文庫よりコピペトレースしたので、ほとんど似ています。なお、スタンダードなものですので笑いを求めないでください。

二十五人の白雪姫

 むかしむかし、冬のさなかのことでした。雪が、鳥の羽のように、ヒラヒラと天からふっていましたときに、ひとりの女王さまが、黒檀の枠のはまった窓のところにすわって、縫い物をしておいでになりました。

 女王さまは、ぬいものをしながら、雪をながめておいでになりましたが、チクリとゆびを針でおさしになりました。
 すると、雪のつもった中に、ポタポタポタと三滴の血がおちました。まっ白い雪の中で、そのまっ赤な血の色が、たいへんきれいに見えたものですから、女王さまはひとりで、こんなことをお考えになりました。

「どうかして、わたしは、雪のようにからだが白く、血のように赤いうつくしいほっぺたをもち、このこくたんのわくのように黒い髪をした子がほしいものだ。」と。

 それから、すこしたちまして、女王さまは、二十五人のお姫さまをおうみになりましたが、そのお姫さまは色が雪のように白く、ほおは血のように赤く、髪の毛はこくたんのように黒くつやがありました。
 それで、名も白雪姫とおつけになりました。けれども、女王さまは、このお姫さまがお生まれになりますと、すぐおなくなりになりました。*1


 一年以上たちますと、王さまは後代わりの女王さまをおもらいになりました。
 その女王さまは美しいかたでしたが、たいへん自惚れが強く、わがままな方で、自分よりも他の人がすこしでもうつくしいと、じっとしてはいられないかたでありました。
 ところが、この女王さまは、前から一つのふしぎな鏡を持っておいでになりました。その鏡をごらんになるときは、いつでも、こうおっしゃるのでした。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、言っておくれ」

 すると、鏡はいつもこう答えていました。

「女王さま、あなたこそ、お国でいちばんうつくしい」

 それをきいて、女王さまはご安心なさるのでした。というのは、この鏡は、嘘を言わないということを、女王さまは、よく知っていられたからです。

 そのうちに、二十五人の白雪姫は、大きくなるにつれて、だんだんうつくしくなってきました。
 お姫さまが、ちょうど七つになられたときには、青々と晴れた日のように、うつくしくなって、女王さまよりも、ずっとうつくしくなりました。ある日、女王さまは、鏡の前にいって、おたずねになりました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 すると、鏡は答えていいました。

「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
 けれども、白雪姫は、千倍もうつくしい。」

 女王さまは、このことをおききになると、びっくりして、ねたましくなって、顔色を黄いろくしたり、青くしたりなさいました。


 さて、それからというものは、女王さまは、白雪姫をごらんになる度に、ひどくいじめるようになりました。しかしながら、この二十五人の中で、女王さまよりも美しい白雪姫がいるため、全員をいじめることは難しいことでした。
 そして、妬みと、高慢とが、野原の草がいっぱいはびこるように、女王さまの、心の中にだんだんとはびこってきましたので、今では夜も昼も、もうじっとしてはいられなくなりました。

 そこで、女王さまは、一人の狩人を自分のところにおよびになって、こういいつけられました。
「あの子達を、森の中につれていっておくれ。わたしは、もうあの子を、二度とと見たくないんだから。だが、おまえはあの子をころして、その証拠に、あの子の血を、このハンケチにつけてこなければなりません」


 狩人は、そのおおせにしたがって、白雪姫を森の中へつれていきました。二十五枚のハンカチの入ったポケットはパンパンでした。
 狩人が、狩りにつかう刀をぬいて、なにも知らない白雪姫Aの胸をつきさそうとしますと、お姫さまは泣いて、おっしゃいました。
「ああ、かりうどさん、わたしを助けてちょうだい。その代わり、わたしが、森のおくの方にはいっていって、もう家にはけっしてかえらないから。」
 これをきくと、かりうども、お姫さまがあまりにうつくしかったので、かわいそうになってしまって、
「じゃあ、はやくお逃げなさい。かわいそうなお子さまだ」といいました。
 続けて、白雪姫B、白雪姫Cの胸をつきそうとしたところ、お姫さまは泣いてしまって、森の奥へと逃がし、二十五人目の白雪姫Yも森の奥へと逃がしてあげました。
「きっと、けものが、すぐでてきて、くいころしてしまうだろう」と、心のうちで思いましたが、お姫さまをころさないですんだので、胸の上からおもい石でもとれたように、楽な気もちになりました。二十五枚のハンカチの入ったポケットはパンパンのままでした。


 丁度、そのとき、イノシシの子が、向こうからとびだしてきましたので、狩人はそれをころして、その血をハンケチにつけました。しかし、その血が足りなかったのでイノシシの親も殺しました。
 お姫さまを殺した証拠に、女王さまのところに持っていきました。女王さまは、それをごらんになって、すっかり安心して、二十五人の白雪姫は全員、死んだものと思っていました。*2


 さて、かわいそうな二十五人のお姫さまは、大きな森の中でまいごになりました。でも、二十五人もいるのでこわくありませんでした。まるで遠足に来たかのように、楽しんでいました。
 お姫さま達は、ゆっくりと歩き、森のおくの方へとすすんでいきました。

 二十五人の白雪姫は、足のつづくかぎり走りつづけて、とうとう夕方になるころに、一軒の小さな家を見つけましたので、つかれを休めようと思って、その中にはいりました。しかし、二十五人の白雪姫全員が入るのが小さすぎたので、代表として白雪姫Gが入ることになりました。

 その家の中にあるものは、なんでもみんな小さいものばかりでしたが、なんともいいようがないくらいりっぱで、きよらかでした。

 そのへやのまん中には、ひとつの白い布をかけたテーブルがあって、その上には、七つの小さなお皿があって、またその一つ一つには、さじに、ナイフに、フォークがつけてあって、なおそのほかに、七つの小さなおさかずきがおいてありました。
 そして、また壁ぎわのところには、七つの小さな寝どこが、すこしあいだをおいて、じゅんじゅんにならんで、その上には、みんな雪のように白い麻の敷布がしいてありました。

 白雪姫Gは、たいへんおなかがすいて、おまけに喉もかわいていましたから、一つ一つのお皿から、すこしずつやさいのスープとパンをたべ、それから、一つ一つのおさかずきから、一滴ずつブドウ酒をのみました。
それは、一つところのを、みんなたべてしまうのは、わるいと思ったからでした。
 ……というのは嘘で、外にいる白雪姫達に自分のしたことがバレてしまうと思い、くすねたのです。

 それが、すんでしまうと、今度は、大変疲れていましたから、寝ようと思って、一つの寝どこにはいってみました。けれども、どれもこれもちょうどうまく体にあいませんでした。長すぎたり、短すぎたりしましたが、一番おしまいに、七ばんめの寝どこが、やっとからだにあいました。それで、その寝どこにはいって、神さまにおいのりをして、そのままグッスリねむってしまいました。


 外にいる二十四人の白雪姫達は白雪姫Gが帰ってこないことを怖がっていました。中にいる家の住人に襲われているのではないかと、話し合っていました。

 日がくれて、あたりがまっくらになったときに、この小さな家の主人たちがかえってきました。その主人たちというのは、七人の小人でありました。この小人たちは、毎日、山の中にはいりこんで、金や銀のはいった石をさがして、よりわけたり、ほりだしたりするのが、仕事でありました。

 七人の小人は外の前にいたかしましい二十四人のお嬢さんたちを見つけました。自分達よりも多い白雪姫に戸惑っていましたが、自分達の家の前にいたので、しかたなく話しかけることにしました。
 二十四人の白雪姫から話を聞くと、白雪姫Gが家の中から帰ってこないとのことでした。七人の小人達は、白雪姫Gの安否を気づかい、家の中へと入りました。

 自分たちの七つのランプに火をつけました。すると、家の中がパッとあかるくなりますと、だれかが、その中にいるということがわかりました。それは、小人たちが家をでかけたときのように、いろいろのものが、ちゃんとおいてなかったからでした。第一の小人が、まず口をひらいて、いいました。
「白雪姫Gが、わしのいすに腰をかけたぞ。」
 すると、第二の小人がいいました。
「白雪姫Gが、わしのお皿のものをすこし食べたぞ。」
 第三の小人がいいました。
「白雪姫Gが、わしのパンをちぎったぞ。」
 第四の小人がいいました。
「白雪姫Gが、わしの野菜を食べたぞ。」
 第五の小人がいいました。
「白雪姫Gが、わしのフォークを使ったぞ。」
 第六の小人がいいました。
「白雪姫Gが、わしのナイフで切ったぞ。」
 第七の小人がいいました。
「白雪姫Gが、わしのさかずきでのんだぞ。」
 それから、第一の小人が、方々を見まわしますと、じぶんの寝どこで、くぼんでいるのを見つけて、声をたてました。
「白雪姫Gが、わしの寝どこにはいりこんだのだ。」
 すると、ほかの小人たちが寝どこへかけつけてきて、さわぎだしました。
「白雪姫Gが、わしの寝どこにもねたぞ。」
 けれども、第七ばんめの小人は、じぶんの寝どこへいってみると、その中に、はいってねむっている白雪姫Gを見つけました。
 今度は、第七番めの小人が、みんなをよびますと、みんなは、なにがおこったのかと思ってかけよってきて、びっくりして声をたてながら七つのランプを持ってきて白雪姫をてらしました。
「おやおやおやおや、なんて、この子は、きれいなんだろう」
と、小人はさけびました。しかし、二十四人の白雪姫を見た後でしたので、きれいという言葉がかげっていました。


 それから小人たちは、二十四人の白雪姫を家の中へと招待しました。二十五人もいましたが、七才でしたので、外に出すわけにはいきませんでした。小人たちは世間体を大切にする種族でした。
 家の中に全員を入れると、七人の小人が入りませんでした。しかたなく、七人の家の外で寝ることにしました。


 朝になって、白雪姫達が目をさました。けれども、小人たちは「おまえさんたちはなんなのかな?」とたずねました。
 すると、「私たちは、白雪姫といいます。私が白雪姫A、あちらが白雪姫B、小人さんたちの食事時を無断に食べたのはGで……」と、紹介していきました。
「いや、そうではなく、おまえさんは、どうして、わたしたちの家にはいってきたのかね。」と、小人たちは聞きました。
 そこで、お姫さまは、まま母が、自分を殺そうとしたのを、狩人が、そっと助けてくれたので、一日中、かけずりまわって、やっと、この家を見つけたことを、小人たちに話しました。

 その話をきいて、小人たちは、「もしも、お前さんが、わしたちの家の中の仕事をちゃんと引きうけて、煮炊きもすれば、おとこものべるし、洗濯も、縫い物も、編み物も、きちんときれいにする気があれば、わしたちは、おまえさん達を家においてあげて、なんにも不足のないようにしてあげるんだが」といいました。それは建前でしたが、大人のマナーとして言いました。

「どうぞ、おねがいします」と、お姫さま達はたのみました。小人たちはびっくりしましたが、一度吐いた言葉を撤回することはできませんでした。


 それからは、白雪姫達は、小人の家にいることになりました。
 白雪姫は、小人の家のしごとを、きちんとやります。小人の方では毎朝、山にはいりこんで、金や銀のはいった石をさがし、夜になると、家にかえってくるのでした。本当なら、二十五人の誰かを山へと連れて行きたかったのですが、七才の子である白雪姫達に力仕事をやってもらうわけにはいきませんでした。

 小人たちが家に帰るまでに、ご飯のしたくをしておかねばなりませんでした。しかし、白雪姫達は当番制を決めていましたので、そんなにきつい仕事ではありませんでした。
 とはいえ、七才の子供でもあるので、親切な小人たちは、こんなことをいいました。
「おまえさんのまま母さんに用心なさいよ。お前たちさんが、ここにいることを、すぐ知るにちがいない。だから、だれも、この家の中にいれてはいけないよ」


 こんなことはすこしも知らない女王さまは、かりうどが白雪姫達を殺してしまったものだと思って、自分が、また第一のうつくしい女になったと安心していましたので、あるとき鏡の前にいって、言いました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 すると、鏡が答えました。

「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
 けれども、いくつも山こした、
 七人の小人の家にいる白雪姫は、
 まだ千ばいもうつくしい。」

 これを聞いたときの、女王さまの驚きようといったらありませんでした。
 この鏡は、けっしてまちがったことをいわない、ということを知っていましたので、狩人が、自分をだましたということも、白雪姫が、まだ生きているということも、みんなわかってしまいました。*3

 そこで、どうにかして、白雪姫を殺してしまいたいものだと思いまして、また新しく、色々と考えはじめました。
 女王さまは、国中で自分が一番美しい女にならないうちは、ねたましくて、どうしても、安心していられないからでありました。

 そこで、女王さまは、おしまいになにか一つの計略を考えだしました。そして自分の顔を黒くぬって、年よりの小間物屋のような着物をきて、誰にも女王さまとは思えないようになってしまいました。

 こんなふうをして、七つの山をこえて、七人の小人の家にいって、戸をトントンとたたいて、いいました。
「よい品物がありますが、お買いになりませんか」
 白雪姫達はなにかと思って、窓から首をだしてよびました。
「こんにちは、おかみさん、なにがあるの」
 二十五人の白雪姫がいっぺんに顔を出したので驚きましたが、女王さまは自分と悟られないように、年寄りを演じました。
「上等な品で、きれいな品を持ってきました。いろいろかわったしめひもがあります」といって、いろいろな色の絹糸であんだひもを、一つ取りだしました。
 白雪姫Hは、「この正直そうなおかみさんなら、家の中にいれてもかまわないだろう」といいました。
 しかし、ある白雪姫Tは「小人さんの言うこと聞かなかったの? 家の中に入れたら、ダメだって」
 白雪姫Wはこういいました。「小人さんは私たちのためにいったの。でもこのおかみさん、いい人だから」
 白雪姫Nは、「そんなん言い訳にならない。だだでさえ、二十五人で迷惑かけているのに、これ以上、迷惑をかけるようなマネはいけないよ」
 白雪姫Gは、「バレなければいいの!」と独自の展開論を繰り広げました。

 白雪姫達同士の会話が盛り上がり、年寄りの小間物屋は放置されていました。
「あの、わたし、もうそろそろ他のところに回りたいので、買うか買わないかどっちかしてくれませんか?」
 というと、白雪姫達は「じゃあ、買う買う」と言って、戸をあけて、きれいなしめひもを買いとりました。

「お嬢さんには、よくにあうことでしょう。さあ、わたしがひとつ一人ずつよくむすんであげましょう。」と、年よりの小間物屋はいいました。

 白雪姫達は少しも疑う気がありません。年寄りの小間物屋は二十五人全員を一度、小人の家から出して、一人ずつ家の中へと入れることにしました。

 おかみさんは白雪姫Aの前に立って、あたらしい買いたてのひもでむすばせました。
 すると、そのばあさんは、すばやく、そのしめひもを白雪姫の首をまきつけて、強くしめましたので、息ができなくなって、死んだようにたおれてしまいました。
 おかみさんは死んだように倒れた白雪姫Aを小人のベッドの上に運び、他の白雪姫達に死んだことを隠蔽しました。

 続けて、おかみさんは次の白雪姫の前に立って、紐で首を絞め続けました。ある白雪姫は「なんで、みんな小人さんのベッドで横になっているの」と聞くと、「鏡を見た自分の美しい姿に驚いて、寝てしまったのだ」と嘘をつきました。

 おかみさんの暗殺術はすばらしいものでした。まるで自分が王さまと結婚するために培ってきた知識がここでも役に立ちました。次から次へと七才の女の子の首を絞める業は見惚れるものでした。

 二十五人目の白雪姫の首を締めると、
「さあ、これで、わたしが、いちばんうつくしい女になったのだ。」といって、まま母はいそいで、でていってしまいました。


 それからまもなく、日がくれて、七人の小人たちが、家にかえってきましたが、かわいがっていた白雪姫が、地べたの上にたおれているのを見たときには、小人たちのおどろきようといったらありませんでした。
 二十五人の白雪姫は、まるで死人のように、息もしなければ、動きもしませんでした。みんなで白雪姫を地べたから高いところにつれていきました。
 そして、喉のところが、かたくしめつけられているのを見て、小人たちは、しめひもを二つに切ってしまいました。すると、すこし息をしはじめて、だんだん元気づいてきました。
 
 小人達の蘇生術はすばらしいものでした。AEDを使わなくても生き返るその手腕は、人間の死の設定を裏切るようなものでした。

 小人たちは、二十五人の白雪姫はどんなことがあったのかをききますと、姫は今日あった、一切のことを話しました。
「その小間物売りの女こそ、鬼のような女王にちがいない。よく気をつけなさいよ。わたしたちがそばにいないときには、どんな人だって、家にいれないようにするんですよ」と。


 わるい女王の方では、家にかえってくると、すぐ鏡の前にいって、たずねました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 すると、鏡は、正直にまえとおなじに答えました。

「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
 けれども、いくつも山こした、
 七人の小人の家にいる白雪姫は、
 まだ千ばいもうつくしい。」

 と、このことを女王さまがきいたときには、からだじゅうの血がいっぺんに、胸によってきたかと思うくらいおどろいてしまいました。白雪姫が、また生きかえったということを知ったからです。
「だが、今度こそは、おまえたちを、ほんとうにころしてしまうようなことを工夫してやるぞ。」そういって、自分の知っている魔法をつかって、一つの毒をぬった櫛(クシ)をこしらえました。


 それから、女王さまは、みなりをかえ、まえとは別なおばあさんのすがたになって、七つの山をこえ、七人の小人のところにいって、トントンと戸をたたいて、いいました。
「よい品物がありますが、お買いになりませんか。」
 二十五人の白雪姫達は、中からちょっと顔をだして、
「さあ、あっちにいってちょうだい。だれも、ここにはいれないことになっているんですから」
「でも、見るだけなら、かまわないでしょう。」
 おばあさんはそういって、毒のついている櫛を、箱から取りだし、手のひらにのせて高くさしあげてみせました。
 ところが、その櫛がばかに、*4白雪姫達のお気にいりましたので、その方に気をとられて、思わず戸をあけてしまいました。

 そして、櫛を買うことがきまったときに、おばあさんは、
「では、わたしが、ひとつ、いいぐあいに髪をといてあげましょう。」といいました。
 かわいそうな白雪姫は、なんの気なしに、おばあさんのいうとおりにさせました。

 おばあさんから髪の手入れをしてもらうために、二十五人の白雪姫は一列に並ばせました。
 櫛の歯が髪の毛のあいだにはいるかはいらないうちに、おそろしい毒が、姫の頭にしみこんだものですから、姫はその場で気をうしなってたおれてしまいました。
 パタリと倒れる数名の白雪姫達を見て、
「どうして? 倒れたん?」
 おばあさんはあわてて、
「それはね、櫛の中にある魔法成分が髪のダメージケアを潤ってくれるの。でも、その魔法成分はちょっと刺激的だから、ビックリしたんだろうね」
 と言って、適当な嘘をつきましたが、
「じゃあ、Eの頭って、弱いんだ!」
 と白雪姫Gが言って、矛盾点を追求することができませんでした。
 
 白雪姫Yが、パタと倒れて、
「いくら、おまえがきれいでも、こんどこそおしまいだろう」と、心のまがった女は、意味不明なことを言って、気味の悪い笑いを浮かべながら、そこをでていきました。

 けれども、丁度いいぐあいに、すぐゆうがたになって、七人の小人がかえってきました。
 そして、白雪姫が、また死んだようになって、地べたにたおれているのを見て、すぐまま母のしわざと気づきました。それで、方々姫のからだをしらべてみますと、毒の櫛が見つかりましたので、それをひきぬきますと、すぐに姫は息をふきかえしました。またもや、ビックリの蘇生方法でした。
 そして、きょうのことを、すっかり小人たちに話しました。小人たちは、白雪姫にむかってもういちど、よく用心して、けっしてだれがきても、戸をあけてはいけないと、注意しました。
 誰も、彼女らの美に関する浅ましい欲求について、追及することはありませんでした。


 心のねじけた女王さまは、家にかえって、鏡の前に立っていいました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 すると、鏡は、まえとおなじようにに答えました。

「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
 けれども、いくつも山こした、
 七人の小人の家にいる白雪姫は、
 まだ千ばいもうつくしい」

 女王さまは、鏡が、こういったのをきいたとき、あまりの腹だちに、体中をブルブルとふるわして悔しがりました。
「白雪姫のやつ、どうしたって、ころさないではおくものか。たとえ、わたしの命がなくなっても、そうしてやるのだ」と、大きな声でいいました。
 それからすぐ、女王さまは、まだ誰も入ったことのない、離れた秘密のへやにいって、そこで、毒の上に毒をぬった一つのリンゴをこさえました。
 そのリンゴは、見かけはいかにもうつくしくて、白いところに赤みをもっていて、一目見ると、誰でもかじりつきたくなるようにしてありました。けれども、その一きれでもたべようものなら、それこそ、たちどころに死んでしまうという、おそろしいリンゴでした。


 さて、リンゴが、すっかりできあがりますと、顔を黒くぬって、百姓のおかみさんのふうをして、七つの山をこして、七人の小人の家へいきました。二十六個のりんごもありましたので、七つの山を越えて、持っていくのが一苦労でした。
 そして、戸をトントンとたたきますと、白雪姫が、窓から頭をだして、
「七人の小人が、いけないといいましたから、わたしは、だれも中にいれるわけにはいきません」と言いました。
「いいえ、はいらなくてもいいんですよ。わたしはね、いまリンゴをすててしまおうかと思っているところなので、おまえさんにも、ひとつあげようかと思ってね」と、百姓の女はいいました。
「いいえ、わたしはどんなものでも、人からもらってはいけないのよ」と、白雪姫の誰がそういってことわりました。
「おまえさんは、毒でもはいっていると思いなさるのかね。まあ、ごらんなさい。このとおり、このリンゴをわたしがたべましょう。他のリンゴはおまえさん方がおあがりなさい」と言いました。
 おかみさんの食べたのは本物のりんご、毒の入っていない方でした。*5
 白雪姫達は、百姓のおかみさんが、さもうまそうにたべているのを見ますと、そのきれいなリンゴがほしくてたまらなくなりました。それで、ついなんの気なしに手をだして、毒のリンゴを受けとってしまいました。
「いいかい、みんなで食べるんだよ。自分が先に食べようとしてはダメだよ」とおかみさんは釘をさしました。

 白雪姫達は一かじり口にいれるかいれないうちに、バッタリとたおれ、白雪姫達は次々とそのまま息がたえてしまいました。
 すると、女王さまは、その様子をおそろしい目つきでながめて、さもうれしそうに、大きな声で笑いながら、
「雪のように白く、血のように赤く、こくたんのように黒いやつ、こんどこそは、小人たちだって、助けることはできまい」といいました。


 そして、大いそぎで家にかえりますと、まず鏡のところにかけつけてたずねました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 すると、とうとう鏡が答えました。

「女王さま、お国でいちばん、あなたがうつくしい。」

 これで、女王さまの、妬み深い心も、やっと沈めることができて、ほんとうにおちついた気もちになりました。


 夕方になって、小人たちは、家にかえってきましたが、さあたいへん、こんども、また白雪姫達が、地べたにころがって、たおれているではありませんか。
 びっくりして、かけよってみれば、もう姫の口からは息一つすらしていません。かわいそうに死んで、もうひえきってしまっているのでした。

 小人たちは、お姫さまを、高いところにはこんでいって、なにか毒になるものはありはしないかと、さがしてみたり、ひもをといたり、髪の毛をすいたり、水や、お酒で、よくあらってみたりしましたが、なんの役にもたちませんでした。
 みんなでかわいがっていた 七才のこども二十五人 を、こうしてほんとうに死んでしまって、ふたたび生きかえりませんでした。

 小人たちは、白雪姫のからだを、二十五つの棺の上にのせました。そして、七人の者が、のこらずそのまわりにすわって、三日三晩泣きくらしました。

 それから、姫をうずめようと思いましたが、なにしろ姫はまだ生きていたそのままで、いきいきと顔色も赤く、かわいらしく、きれいなものですから、小人たちは、
「まあ見ろよ。これを、あのまっ黒い土の中に、うめることなんかできるものか。」そういって、外から中が見られるガラスの棺を二十五つもつくり、その中に姫の身体をねかせ、その上に金文字で白雪姫という名を書き、王さまのお姫さまであるということも、書きそえておきました。


 それから、みんなで、棺を山の上にはこびあげ、七人のうちのひとりが、いつでも、そのそばにいて番をすることになりました。
 すると、鳥や、けだものまでが、そこにやってきて、白雪姫のことを泣き悲しむのでした。いちばんはじめにきたのは、フクロウで、そのつぎがカラス、いちばんおしまいにハトがきました。

 さて、白雪姫達は、ながいながいあいだ棺の中によこになっていましたが、そのからだは、すこしもかわらず、まるで眠っているようにしか見えませんでした。お姫さま達は、まだ雪のように白く、血のように赤く、こくたんのように黒い髪の毛をしていました。

 すると、そのうち、ある日のこと、ひとりの王子が、森の中にまよいこんで、七人の小人の家にきて、一晩とまりました。
 王子は、ふと山の上にきて、ガラスの棺に目をとめました。近よってのぞきますと、じつにうつくしいうつくしい少女のからだが入っています。それも二十五人もいたので、王子様は次から次へと見てまわりました。

 一人の小人が自分を見ていることに気づかず、しばらくわれをわすれて見とれていました王子は、棺の上に金文字で書いてあることばを読みました。六人の小人が帰ってきて、すぐ小人たちに、
「この棺を、わたしにゆずってくれませんか。そのかわりわたしは、なんでも、おまえさんたちのほしいと思うものをやるから」と言いました。けれども、小人たちは、
「たとえわたしたちは、世界中のお金を、みんないただいても、こればかりはさしあげられません」とお答えしました。*6
「そうだ、これにかわるお礼なんぞあるもんじゃあない。だがわたしは、二十五人の白雪姫達を見ないでは、もう生きていられない。お礼なぞしないから、ただ、ください。*7わたしの生きているあいだは、白雪姫達をうやまい、きっとそまつにはしないから。」と、王子はおりいっておたのみになりました。

 王子が、こんなにまでおっしゃるので、気だてのよい小人たちは、王子の心もちを、気のどくに思って、その棺をさしあげることにしました。
 王子は、それを、家来たちに命じて、肩にかついではこばせました。二十五人もいたので、王子直系の師団を出すことになりました。
 ところが、まもなく、家来のひとりが、一本の木につまずきました。で、棺がゆれたひょうしに、白雪姫がかみ切った毒のリンゴの一きれが、のどからとびだしたものです。すると、まもなく、お姫さまは目をパッチリ見ひらいて、棺のふたをもちあげて、起きあがってきました。

 それをきいた王子のよろこびはたとえようもありませんでした。王子様は兵士達に、残り二十四人のお姫さまから体内からリンゴを吐き出すように命令しました。小人もビックリの蘇生術でした。

 みんなが生き返り、元気づいて、ある白雪姫は
「おやまあ、わたしたちは、どこにいるんでしょう」と言いました。
 王子様は白雪姫達の前に立ち、「わたしのそばにいるんですよ」といって、いままであったことをお話しになって、そのあとから、
「わたしは、あなた達が世界中の何ものよりもかわいいのです。さあ、私のお父さんのお城へ一緒にいきましょう。そしてあなた達は、わたしのお嫁さんになってください」といわれました。

 そこで、白雪姫達もしょうちして、王子と一緒にお城にいきました。そして、ご婚礼は、できるだけ立派に、さかんにいわわれることになりました。

 けれども、このお祝いの式には、白雪姫のまま母である女王さまもまねかれることになりました。女王さまは、七才のわかい花嫁が二十五人の白雪姫達だとは知りませんでした。
 女王さまはうつくしい着物をきてしまったときに、鏡の前にいって、たずねました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 鏡は答えていいました。

「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
 けれども、若い女王さまは、千倍もうつくしい。」

 これをきいた悪い女王さまは、腹をたてまいことか、呪いのことばをつぎつぎにあびせかけました。
 そして、気になって気になって、どうしてよいか、わからないくらいでした。女王さまは、はじめのうちは、もうご婚礼の式にはいくのをやめようかと思いましたけれども、それでも、自分で出かけてって、そのわかい女王さまを見ないでは、とても、安心できませんでした。

 女王さまは、まねかれたご殿にはいりました。そして、ふと見れば、若い女王になる人とは七才の白雪姫達ではありませんか。女王はおそろしさで、そこに立ちすくんだまま動くことができなくなりました。

 けれども、そのときは、もう人々が前から石炭の火の上に、鉄でつくった上靴をのせておきましたのが、まっ赤にやけてきましたので、それを火ばしでへやの中に持ってきて、悪い女王さまの前におきました。そして、むりやり女王さまに、そのまっ赤にやけたくつをはかせて、倒れて死ぬまでおどらせました。


 数年後、自分の城へと帰ってきた白雪姫達は女王様にある鏡を見つけました。女王の日記を見て、その鏡はふしぎな鏡だということがわかりました。

 ためしに白雪姫Gはこんなことを言いました。

「鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
 国じゅうで、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ。」

 鏡は答えていいました。

「白雪姫がいちばんうつくしい」

 それを聞いた二十五人の白雪姫達はお互いの顔を見て、笑いあいました。

注意 この二十五人の白雪姫のほとんどは原文のままです。

 
 二十五人やハンカチや蘇生術、最後のところはオリジナルです。その他は原文のままです。

 それと、白雪姫について、ひとつ、私は勘違いしていました。てっきり白馬の王子様のキスで目覚めるのだと思いました。しかし、白雪姫にはキスもなければ、白馬にも乗っていない、なんだか肩透かしでした。単なるドジッこの兵士がたまたま転んで、毒リンゴを吐き出して生き返った白雪姫、って、すごいです。(ていうか、胃に消化されるって)

 後、白雪姫を読んで思ったことがありました。

 みんなロリコンだ!!

 狩人も小人も動物も王子様も、みんなロリコンです。特に王子様はかなりの問題児です。七才の女の子を小人からくれっていう神経、並の人間ならできません。
 もし、彼が王子じゃなかったら、ただのロリコンだと揶揄されていたでしょう。王子という肩書きはそんなロリコンという問題をスケープゴートしてくれる浄化作用があります。

 後、わるい女王様の殺し方もけっこうえげつない。集団暴行と言ってもいいでしょう。これをするように、提言したのが白雪姫ならかなり腹黒い、腹黒姫です。そんなことを思うグリム童話でした。

*1:そりゃ亡くなるわ

*2:二十五人も殺せるわけないだろう

*3:というよりも、狩人が二十五人も殺せるわけないだろう?

*4:ばかに、は原文訳のままです

*5:原文ではひとつのリンゴ半分こにして、毒の入った方のりんごをあげます

*6:原文のままです。他人の子供なのに、自分のものだと言い張る小人の神経は少しばかり驚きです

*7:原文のままです。ロリコンか!